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SOCIE

在野の社会学研究者による尽きなく生きることの社会学

勝敗よりも勝ち方が未来を決める

ルサンチマンは終わらない

 フランスでIS(イスラム国)による同時多発テロが起こった。

 報道によると、6カ所以上で合計120人以上が犠牲になった。痛ましい惨劇ではあるが、どうしても「起こるべくして起こった」感は否めない。日々のイスラム情勢に関するニュースを見ている人であれば、たいてい「ああ、やはり起こったか」という感覚を抱いただろう。

 それは結局のところ、9・11からつづくイスラム諸国の西欧諸国に対するルサンチマン(憎悪感情)が、原理主義者による破壊行動に表出したに過ぎないからだ。

 

 だからこのテロは終わらない。

 おそらくフランス・アメリカをはじめとする西欧諸国は、IS壊滅作戦を本格化させることだろう。そしてその作戦は、個別には成功する。幹部クラスの逮捕または殺害というニュースで、わたしたちはそれを知るだろう。

 しかしそれでもテロは終わらない。なぜならテロの主体(行為を生み出す張本人)は、アルカイダやISといった個別組織ではなく、イスラム諸国にあるルサンチマンそのものなのだから。

 

 

社会の魅力性において勝利する

 対テロ戦において、これまでの国民国家間の戦争の論理は通用しない。

 これまでの戦争においては、「領土」と「中枢組織」を落とせば決着がついた。すなわち国の主要拠点と首都を陥落させることが、戦争勝利の条件であった。

 しかし対テロ戦にそのルールは通用しない。彼らの「領土」はあってないようなものだ。それにテロリズムの駆動原理は「(憎悪)感情」だから、たとえ組織中枢を破壊したところで、「感情」は消えはしないし、むしろより強固に純化していくだろう。

 

 ではどうするか?

 それはもう「恨ませずに勝つ」しか道はない。

 日々の人間関係でも同じだが、たとえこちらに非がなくとも、恨まれるとロクなことはない。あとで何をされるかわからない。ならば、こちらが勝利しつつも、遺恨が残らない勝ち方を模索しなければならない。問題は、勝敗ではなく勝ち方なのである。

 

 そのヒントを見田宗介にみることができる。

 見田は、冷戦時の米ソ対立において、アメリカは「正しい勝ち方」をしたとみている。事実、アメリカの完全勝利で幕を引いたけれども、ソビエトの敗残者による報復テロは起こらなかった。それはなぜか?

 

それはアメリカが冷戦を軍事力で勝ったのではないからです。

アメリカと西ヨーロッパは、その情報と消費の水準と、なによりもその「自由な社会」であることの魅力性において、冷戦の対手を圧倒したのです。

 

 

 冷戦においてアメリカは正しい勝ち方をした。だから旧ソビエトの民衆にルサンチマンは生まれなかった。しかし、湾岸戦争においてアメリカは間違った勝ち方をした。だからそのルサンチマンは、ハイジャック機のかたちをとって2つのビルに追撃したのである。

 社会そのものの魅力性によって勝利する。一見すると、あまりに夢想的で非現実的な手法のように思える。そんなことができれば苦労しないよ、と嘆かれるかもしれない。

 しかし私は21世紀の対テロ情報戦として、有効な手段に思える。

 20世紀の国家間戦争においては、「伝単」と呼ばれるビラがひとつの戦略的手段として採用された。敵国上空から大量のビラを散布し、国民の戦意を喪失させるやり方は、「紙の爆弾」として恐れられたそうである。その中身は、冷静に戦況を伝えるものから、情に訴えるもの、なかには欲情的なビジュアルで戦意を喪失させるものをあったらしい。

 しかし今日においてビラ散布という手段をとる必要はない。我々にはメディアを通して発信する技術があるし、原理主義へと流れる若者を魅了する文化をもっている(はずだ)。たとえどんな国のどんなイデオロギーの若者でも、惹かれるものは大して変わらない。アニメを好きになる人もいるだろうし、恋愛ドラマを好きになる人もいるだろう。

 

 現段階においては、ISのネットメディアを用いたプロパガンダ作戦が有効に機能している。彼らはYouTubeなどのソーシャルメディアを効果的に使って、人員調達を行っている。処刑シーンなどの過激な動画や、彼らの断固とした姿勢は、一部の若者にとってはとても魅力的に映るだろう。事実、日本でもISへの加入志願者が水際で捕まったという。

 しかし、一方で、文化の魅力性においては、私たちのほうが圧倒的なアドバンテージがある。(西欧への)憎悪と(イスラム法の)戒律しか選択肢がない彼らには、まともな文化を創造することはできない。

 彼らが目指す世界には、少年ジャンプも、深夜アニメも、ドロドロ昼ドラもない。けれど、少年ジャンプも、深夜アニメも、ドロドロ昼ドラがない世界というのは、とてもとてもつまらない世界なのだよ。