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在野の社会学研究者による尽きなく生きることの社会学

生涯ランキングー映画編ー

評論編小説編アニメ編に続いて、今回は生涯ランキングの映画編。

並べてみて感じるのは、素直に「印象に残った順」に並べると、やっぱり王道が強いということ。尖ったものとか、オリジナルなものも好きなんだけれど、「王道」の王道たる所以のようなものを感じる。

 

では早速。

生涯ランキングー映画編ー

第10位 北野武HANA-BI』(1998)

北野武作品でいえば、私は『HANA-BI』が一番好きだ。もちろん人によっては『ソナチネ』かもしれないし、『座頭市』『アウトレイジ』かもしれない。でも、私にとってのベスト『HANA-BI』。

北野武作品については、よく残虐性がクローズアップされることが多いけれど、正直いってそこまで残虐だとも思わない。もっと狂気に満ちた異常な残虐性を写した作品もあるし、どちらかというと北野作品の残虐性は、ストレートというか、あんまり狂気さは感じない。どちらかというと、臆病な男がやくざな世界で生きるために身につけた「鎧」のような感じがする。

HANA-BI』に関していうと、そういう「鎧」を纏うことの孤独さや哀愁や無意味さのようなものがにじみ出ていて、すごく胸がつまる。わたしはべつにやくざな人間ではないし、どちらかというと正反対の人生を歩んできたけれど、なんとなく「ああ、そうだよなあ」と共感してしまう。それがすごいいい。

あと、色彩のコントラストも際立っているし、観た人ならわかると思うけれど、あの「最後の一言」もすごく、いい。

 

第9位 ウォシャウスキー兄弟『マトリックス』(1999)

これを劇場でみたときは凄く興奮した。劇場からでても、しばらくマトリックス世界にいる気分で、ネオのように過ごしていた。

アニメ『エヴァンゲリオン』のところでも話したけれど、こういう作品は内容とかテーマについて考えても仕方ない。そういうのは所詮、世界観をつくるためのツールにすぎない。だから純粋にあのかっちょいい世界観に入り込んで、それを満喫するに限る、とわたしは思う。

 

第8位 シドニー・ルメット12人の怒れる男』(1957)

観てる最中に「ものすげーー」と唸った作品。やっぱり凄いよね。密室で人がしゃべっているだけで面白い映画が作れる、というのは神業だと思う。しかもきちんとドラマがあるし、そのドラマが不自然じゃない。

べつにわたしが褒めなくても、世界中の人が褒めているから今更なにもいうことはないけれど、やっぱりこういう超絶技巧をみると思わず感動してしまう。

 

第7位 ロバート・ゼメキス『バックトゥザフューチャー1・2・3』(1985〜)

シリーズものは、セットでカウントさせてください。やっぱり単独では語れない。

こういう王道エンタメって、意外と評価されにくいけれど、やっぱり凄い。数十年たったあとでも、いまだに世界中の人々の心を掴みつづける作品ってそうそうない。なにも考えずにぼーっと観ていても楽しい。マイケルJフォックス、クリストファーロイドもはまり役だし、脚本も愉快だし。

でも、一番の『バック』の魅力は、小ネタだと思う。ストーリーにあまり関係ないような小ネタが多いし、その一つひとつが面白い。未来の靴とか電子レンジとか、過去の人とちぐなぐな会話するところとか。ああいうのって大事だよね。

 

第6位 庵野秀明『シンゴジラ』(2016)

変な映画だけど、なぜだか面白い。でもなぜ面白いかよくわからない。いろいろ理由をこじつけようとすることもできるけれど、全部ちがう気がする。そんな映画だと思った。

ただ感じたのは、2つあった。ひとつは、作り手の欲望に忠実なんだなあ、ということ。「ゴジラファンとして俺が見たかったのは、これなんだ!」というファン的欲望が垣間見えた。役者の演技とか、それぞれのカットとか、ゴジラの動きとか。「こういうことがやりたい!」というコンセプトが情熱とともに伝わっているのは、いい。

あともうひとつは、なにか実験をやろうとしているだ、ということ。あのドラマ性を一切排した脚本、不自然なまでに演技を排した棒読み早口セリフ、顔の超アップの連打、理解が追いつかないほどのハイテンポなカット。それらの技法を駆使して生まれる空気感・世界観はどんなものか。そういう実験を、東宝の巨大資本でやりきって、ヒットした。そういう感じがした。

 

第5位 ジョージ・ルーカススターウォーズ4・5・6』(1977〜)

これはもう私の青春なので、入れざるをえない。

スターウォーズ』に関しても、わたしは内容をみる映画ではなく、世界観を純粋楽しむ映画だと思う。たまに「父親殺し」のストーリーラインを精神分析ばりに分析する人がいるけれど、ああいうのはちょっと虫酸が走る。ダースベイダーかっこいい! チューバッカかわいい! ファルコン号すげー! でいい。それでいいのだ。なにか「内容(ストーリーの奥深さ)」がないといい映画ではない、というような空気感があるけれど、そんなのなくたって面白くなるし、それで映画の価値が下がるわけでない。

 

第4位 小津安二郎東京物語』(1953)

こういう名作をもってくるのって照れるけれど、この映画も凄い。見ていると「哀しみ」とも「嬉しさ」とも似つかないよくわかんない独特の感情に陥る。いってしまえば「小津的」な感覚。老夫婦が特に内容もない会話をただとりとめもなくしているだけで、なぜあんな気持ちになるのかわからない。ほんとうにオリジナルな人だと思う。

 

第3位 フランク・ダラポン『グリーンマイル』(1999)

正直にいって、この映画がそれほど素晴らしいとは思っていない。ましてや小津安二郎よりも上だとは全く思えない。まあもちろんいい映画だとは思うけれど。

つまり、観た時期と、そのときの心理状態で深く印象に残ったということだ。若かったし、ああいう心が洗われるような物語を必要としていた時期だった。だからものすごく泣いたし、なんども見返した。人生にはときにああいう「心が洗われる」映画が必要なんだと思う。

もちろん、ほんとにいい映画ですよ。やっぱりスティーブンキングって偉大です。

 

第2位 ミロス・フォアマンアマデウス』(1984)

これ観たの小学生のときだったと思う。でもいまだに筋とか細部のシーンも覚えているから、よほど記憶に焼きつけられた映画なのだと思う。

この映画で取り上げられている主題って、実は結構身近にあって誰もが感じたことのある感情なんだけど、意外ときちんと取り上げられることが少ない。もちろんその感情とは、嫉妬と憧憬がごちゃまぜになった苦悩。その才能を認めて、羨み、憧れ、尊敬し、才能を見抜ける自分自身を誇らしく思うと同時に、どうしようもなく憎しみ、妬み、自分の無力さを痛感してしまう。そういう心の機微が、モーツアルトの楽曲に乗せて劇的に描き出される。圧巻。

観たことない人は、是非観るべし。ぜったい損しない。

 

第1位 ジュゼッペ・トルナトーレニューシネマパラダイス』(1989)

何十回みても泣ける。冒頭から泣ける。あの音楽がかかっただけで泣ける。

でも、なんで泣けるのかが意外とわからない。だいたい「泣かしにきた」映画って、「なぜ泣くか」がすぐにわかる。泣いてる最中でもわかる。たとえば、離れ離れの男女がついに心の壁を突き破って、再会すべく走り出す、とか。この映画にそういうわかりやすいカタルシスがあるわけじゃない。もちろんわかりやすいカタルシスもある(最後の再会シーンとか)。でも、ほかのところで泣く理由がよくわからない。主人公の少年が映画を食い入るような目で観てるだけで泣ける。なぜだろう。

終戦直後のイタリアでも、現代の日本でも共通する甘酸っぱい「少年時代」への憧憬なのだろうか。井上陽水の歌でも泣けちゃうしね。

 

つぎは漫画編にいこうと思います。