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在野の社会学研究者による尽きなく生きることの社会学

2000年という年のほんのわずかな予感 ーーゼロ年代とはなにかシリーズ①

2000年という年 1999年の大晦日。かすかな期待感を抱きながら寝床についたことを覚えている。 2000年問題、世界中のコンピュータが誤作動を起こし、社会が動乱し、慌てふためく。テレビは通常放送から緊急ニュースに切り替わり、人々が一斉にざわめき立つ。2…

こうの史代原作・片渕須直監督『この世界の片隅に』③

まさか一つの作品に3つも文章を投稿するとは思ってなかったが、書き足りないのでもう少し書いてみたい。 一つ目の文章では、この作品の語りきれない感動を書いた。 二つ目の文章では、正面切ってテーマについて言及してみた。 三つ目の文章では、その作品の…

こうの史代原作・片渕須直監督『この世界の片隅に』②

前回、テーマについての話をほとんどしなかったので、少しテーマについて掘り下げてみたい。こういう作品のテーマ分析をするのは、ある意味「野暮」な作業ではあるけれど。 この作品のテーマを見つけるには、映画よりも原作のほうがわかりやすい。原作漫画の…

こうの史代原作・片渕須直監督『この世界の片隅に』①

2016年の年末にこの映画をみた。個人的には仕事がありえないほど忙しく、土日含めて深夜までずーと仕事をしていたので、ついつい観るのが遅れてしまった。それに公開前に予告をみて、『ほたるの墓』と『はだしのゲン』を足した作品だと思って、自分のセンサ…

生涯ランキングー映画編ー

評論編・小説編・アニメ編に続いて、今回は生涯ランキングの映画編。 並べてみて感じるのは、素直に「印象に残った順」に並べると、やっぱり王道が強いということ。尖ったものとか、オリジナルなものも好きなんだけれど、「王道」の王道たる所以のようなもの…

生涯ランキングーアニメ編ー

評論編・小説編につづき、つぎはアニメ編。ちょっと気が楽になる。 小説編のランキングを見返してみると、あんがいエンタメっぽいのが少ない。こういうのはいけない。アニメ編は気をとりなおして、欲望のままに書いていこう。 ただ、アニメ編に関しては、あ…

生涯ランキングー小説編ー

生涯ランキングー評論編ーにつづき、小説編。 選定基準や注意点は前と同じなので繰り返さない。さっそくやってみよう。 生涯ランキングー小説編ー 第10位 フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1977) 正直にいって、1位2位は…

生涯ランキングー評論編ー

ひとりで過ごす時間が多い人は、ひとり遊びがだんだんうまくなる。その昔、ムーアの法則といって、「半導体の進化は18ヶ月で2倍になる」というよく分かんない法則があったけれど、あれと同じで、ひとりで過ごす時間が長くなるほど、指数関数的にひとり遊…

村田沙耶香『コンビニ人間』

今年の下半期は、なにかのコンテンツをじっくり見る時間が一切なかった。映画や漫画すら読む時間がなかったので、ましてや小説なんて一行も読んでいなかった。電通の事件が可愛く思えるほどに忙しかった。だから「コンビニ人間」が流行っていることも知らな…

ドナルド・トランプがこれまでの極右政治家とは違うところ

アメリカ大統領選の山場である「スーパーチューズディ」を制したドナルド・トランプ。連日のニュースでも「トランプ逆転」の見出しが躍っている。 「ああ、大変な世の中になりそうだ」と感じてる方も多いと思う。わたしもそう思う。わたしは、「ドナルドトラ…

文芸批評についてー現実と向き合うこと

「文芸批評」というジャンルの衰退が叫ばれてから久しい。わたしとしてはあまり興味のないジャンルなので、文芸批評が衰退しようが構わないのだが、まあ少しは気になる。わたしは社会科学系の専門だけれど、やっぱり近しい分野なのでどうしても先行きくらい…

「萎え」のはなし

11月5日 長くこのブログを放置してきたが、今日から少し続けてみようと思う。 できるだけ毎日書き続けようと思う。毎日書き続けることで、なにかが突破口のようなものが見えればいいのだけれど。 最近ひしひしとある種の「萎え」のような感覚を抱くようにな…

JJエイブラムス「スターウォーズ7ーフォースの覚醒」

スターウォーズ7を観た(@二子玉ライズ)。よかった。どの方角からも(批判の)矢が飛んでくる状況のなかで、よくあそこまで仕上げたと思う。的確な落とし所だ。旧部作ファンに目配せしつつ、しっかりエイブラムス風の新しいスターウォーズを作り上げた点は…

勝敗よりも勝ち方が未来を決める

ルサンチマンは終わらない フランスでIS(イスラム国)による同時多発テロが起こった。 報道によると、6カ所以上で合計120人以上が犠牲になった。痛ましい惨劇ではあるが、どうしても「起こるべくして起こった」感は否めない。日々のイスラム情勢に関す…

見田宗介「社会学入門」

社会学の面白さとは? 社会学というのは、学問のなかの「残滓」のようなところがある。 つまり、残りカス。日常生活でおこる疑問や問いのなかで、これは「◯◯学」の領分である、と規定できないようなものは、大抵「社会学」として扱われることになる。 たしか…

「伝わる」とはなにか?

<要約> このブログのメインコンセプト「伝わる」を解説します。 その要諦は、「語る内容の魅力性によって受け手の興味を誘発させること」。 説得の語法ではなく、「楽しいからおいでよ」という新しい世界へのお誘いの語法です。 「伝わる」とはなにか? み…

生きたことばとはなにか

生きた学問は学びを開始させる。 大学院のころ、私の教授がこんなことを言っていた。 学問には生きた学問と死んだ学問がある。それは教壇に立つとすぐわかる。生きた学問は、説明を始めた瞬間から学生の目が輝き出し、我を忘れたように興味の眼差しを向ける…

貫成人「哲学マップ」

哲学マップ (ちくま新書)(2004/07/06)貫成人商品詳細を見る ・全体をマップ化することの効能 私が社会思想系の大学院に入ったとき、一番驚いたことは、「先輩たちはそれほど本を読んでいない」ということだった。 もちろん私に比べればみんな博識で古今東西…

東浩紀「弱いつながり」

弱いつながり 検索ワードを探す旅(2014/07/24)東 浩紀商品詳細を見る ・東浩紀と偶然性 私は東浩紀という人物の本がわりあい好きである。 「存在論的・郵便論的」には圧倒されたし、「動物化するポストモダン」は今たまに読んだりするし、「情報環境論集」は…

真木田雄介「偶然性の現代社会学」

偶然性の現代社会学: 閉塞するリスク社会(2014/03/23)真木田雄介商品詳細を見る ・恐縮ながら… 電子書籍で本を書いた。 本を読んだり、日常を生きていて考えたことを一つの文章にしてみた。それゆえこれまでのブログで紹介したようなトピック(「閉塞感」や…

マックス・ウェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)(1989/01/17)マックス ヴェーバー商品詳細を見る ・ウェーバーの過小評価 結構昔のことだけれど、京都市図書館にウェーバーの『プロ倫』が置いてなくて愕然としたことがある。 なんとなく読み返してみ…

九鬼周造「偶然性の問題」

偶然性の問題 (岩波文庫)(2012/11/17)九鬼 周造商品詳細を見る ・なぜ現代において九鬼周造が必要なのか? 原発問題やリーマンショック事件を皮切りに「リスク計算」という問題が注目を浴びている。それと同時に、ビジネスにおいては、ビッグデータが活用さ…

大澤真幸「思考術」

思考術 (河出ブックス)(2013/12/12)大澤 真幸商品詳細を見る ・有意味な読書をするためには 人文・社会科学系の学問に興味を持つものならば知らない人はいないだろう大澤真幸が「思考術」なる本を出した。 ただ本書は、「思考術」というよりも「読書術」とい…

松岡正剛「知の編集術」

知の編集術 (講談社現代新書)(2000/01/20)松岡 正剛商品詳細を見る ・よくわからないおじさん ある程度の読書家であれば、松岡正剛という名に聞き覚えくらいあるだろう。ちょくちょく本も出しているし、ネットで書評もしている。昔は雑誌の編集者だったらし…

高橋由典「行為論的思考」

行為論的思考―体験選択と社会学 (叢書・現代社会のフロンティア)(2007/07)高橋 由典商品詳細を見る ・行為論の面白さ 「行為」とは、人間が意図した、意味ある行動のすべてを指す。 仕事をするのも、ブログを書くのも、友達と意味のないおしゃべりをするのも…

東浩紀・大澤真幸「自由を考える」

自由を考える―9・11以降の現代思想 (NHKブックス)(2003/05/01)東 浩紀、大澤 真幸 他商品詳細を見る ・「自由」な時代は、本当に自由か? おそらく歴史的にみても、現代よりも「自由」な時代は存在しない。 強権的な君主によって虐げられるわけでもないし、…

國分功一郎「ドゥルーズの哲学原理」

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)(2013/06/19)國分 功一郎商品詳細を見る ・これは解説本の神様じゃないか 思想家とか学者とかの難しい本を読むとき、わたしは素直に解説本から読むようにしている。 難しい本を無理やり読んでも理解に時間がかかるだけだ…

大塚英志・東浩紀「リアルのゆくえ」

リアルのゆくえ──おたく オタクはどう生きるか (講談社現代新書)(2008/08/19)東 浩紀、大塚 英志 他商品詳細を見る ・思想的口喧嘩の対談本 これまでで一番面白かった本は何ですか? と問われたら、私は間違いなく本書を挙げると思う。 この本は、「物語消費…

宮台真司「終わりなき日常を生きろ」

終わりなき日常を生きろ―オウム完全克服マニュアル (ちくま文庫)(1998/03)宮台 真司商品詳細を見る ・1995年以降の閉塞感 日本の社会分析家にとって、1995年はただの暦上の一年ではない重要な意味を持っている。彼らは95年以前と以降では、なにかが決定的に…

ウルリヒベック「危険社会」

危険社会―新しい近代への道 (叢書・ウニベルシタス)(1998/10)ウルリヒ ベック商品詳細を見る ・現代の見取り図 この本の社会分析における価値は、マルクスの『資本論』のそれに匹敵するとわたしは思っている。『資本論』は、1867年に公刊されてから1970年く…